サピエンス全史を読んだ

kindle を購入してから,会社までの行きかえりと夜寝る前の20分程度が読書の時間になった。ジャンルは大体ノンフィクション。気に入った文言をハイライトしながら読み進めるのが楽しい。

 

激混みの御堂筋線の中,年始からちまちま読み進めてやっと読み終わったのが
サピエンス全史 

ホモサピエンスの台頭から資本主義の隆盛までの歴史的な事象について丁寧に解説した後,歴史を幸福という観点で切り込んで,それからでこれからの人類の幸福について考える本。

なんですが,自分としては下地となる「歴史的な事象について丁寧に解説した」の部分に目からうろこポイントが多すぎて,その辺のことをいくつか振り返ってみたいと思います。

  

認知革命 虚構を語ってこそ人類

この本で出てきた「○○革命」の中で最初に出てきたもの。認知革命。初めて聞いたわ。認知革命によって人類は言語を話し,虚構を語ることができるようになった。嘘をつくという意味ではなく虚構を信仰できるようになったということだ。(嘘なら人類以外の動物もつけるという例を出してくるのがこの本の面白い所) そして虚構によって人類は大勢で協力できるようになった。(虚構なしで協力できるのは150人が上限)

なんだ宗教の話か?と思ったけど以下のものも虚構の信仰である。

急に身近になってきた。

貨幣は確かに「コインや紙に価値がある」という信仰だし,国は人が勝手に決めたチーム分けである。ただし虚構だからといって無意味かというとそうではない。貨幣があるからこそ地球の裏の知らない農家のおじさんが作った食品を食べて,その分知らないおばさんのために新聞を配ったりできる。国があるからこそ異国の地の日本人と会った時に「同じ日本人だもんな」といって仲良くなれる。(こういう経験は僕はないけど「日本人」を「群馬県民」に置き換えればあるにはある) ただしグローバル化の現在,国については本当に虚構なのではという気もしてくる。

人権も虚構というのが意外。虚構といっても否定しているわけではない。かといって事実でもない。そう信じる方がうまくいくから信じているだけだ。だから,例えば人権がこの世の絶対の真理であることを一生懸命説明する必要はない。そういうのを信じる方がなんかいいねで十分だ。なんだか気が楽になってきた。より一層堂々と人権を主張できそう。

 

狩猟採集民は農耕民より豊か

縄文時代は狩りをしたり木の実を採ったりしていた。弥生時代は稲作が始まって畑を耕すようになった。」というのを義務教育の歴史の授業で習った。このころはまだやる気があった。資料集に載ってた当時の食事の違いを見て「縄文時代のほうが肉と魚とフルーツでおいしそう」と思ったのが印象的である。

その小6だか中1だかの僕の印象はすごく正しくて,栄養バランスも労働時間も農耕民より狩猟採集民のほうが幸せな感じだったという。本書の「ホモ・サピエンスが小麦,稲,ジャガイモに"家畜化"された」という表現がめちゃくちゃ面白い。両者の特徴を挙げると…

狩猟採集民

  • 狩りで大物仕留めれば短時間労働でしばらく食える
  • 食べ物の種類が豊富で栄養バランスよい
  • わりと60歳超えいた
  • 将来のこと考えなくて良い

農耕民

  • 作物育てるのに手間がかかるので一日中働いた
  • 移動生活ができないし,できないので他部族と衝突したら即戦争
  • 栄養バランスの偏り
  • 不作=死
  • 数か月後の収穫がうまくいくか心配でストレス
  • 数万年かけて身体が狩り用に進化したから農耕すると腰痛める

農耕民つらそう… 

ちなみに僕は,ゲームCivilization V (Steam:Sid Meier's Civilization® V) という文明を育てて戦うストラテジーゲームが大好きなんですが,テクノロジーツリーの一番最初は「農耕」なんですよ。

「初手から詰んでるじゃないか!」という気持ち。

それではデメリットだらけに見える農耕の何がいいのかというと,(以下,『銃・病原菌・鉄』(著:ジャレド ダイアモンド)の知識も混ざりますが)

  • 単位面積当たりに得られるカロリー量が高い
    →人口密度が増えて大勢で協力でき,軍事力も強くなる
  • 保存がきき,労働カロリーに対して得られるカロリーが多い (1 kcalの労働で50 kcal)
    →食料生産者以外の存在が許される(首長,兵士)

 であり,これが現代まで続く文明発展に欠かせないのです。遺伝子の拡散や文明の発展がそのまま個人の幸福とならないのが悲しいところ…

 

差別はポジティブフィードバックループを持つ

人類は虚構を作ったけどその中には差別構造を持ったヒエラルキーもたくさんありましたよ,という中での話。

黒人を例にとって,

  1. 黒人の奴隷制が二世紀にわたって続いた(初期状態)
  2. そのため白人より黒人は貧しく,教育水準が低かった
  3. 良い報酬の職は白人が占め,黒人は劣っているという発想になる
  4. 黒人を報酬の良い職に採用しなくなる
  5. 2 に戻る

というのが差別の悪循環。多分白人黒人を男性女性やその他格差がある系の属性に置き換えても成り立つと思う。モテる人と非モテとかでもいいと思う。

ポジティブフィードバックループ倒立振子のように不安定なので,最初にちょっとした偶然の出来事でもあればたちまち発散してしまう。そして僕は一応大学で制御工学を学んでいた身として,「不安定な系は制御しなければ!」という本能を持っている。

つまり下図のようなポジティブフィードバックは…

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夜の夜中に何を書いているんだろう…

コントローラ(制御器)を加えてこうするべきだ。

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コントローラを加えてポジティブフィードバックによる発散を抑える

コントローラは被差別者の評判を調整することで豊かさを取り戻させる。

黒人の豊かさを取り戻すためには,黒人はそんなに悪くないぜ!みたいな評判を悪循環ループに突っ込んで適切な値に収束させないといけないのだろう。ただこれは積極的な逆差別になるかもしれない。(企業が女性を優先的に採用する,女性の議員の割合を意図的に増やす 等)

それでも,その評判アップキャンペーンは長い目で見れば一瞬の出来事で済むだろう。その後はちょっとした差別の芽をちまちま摘んでいくことになるのだろう。

制御が上手なら一瞬だけバタバタっと制御出力を出すが,目標値(理想)に収束した後はちょっと理想からずれたものをちょっと逆向きに戻すような動作をする。差別対策を不安定系の制御に例えてみました。

 

貨幣は寛容性の極み

宗教や性別,人種,年齢,性的思考に基づいて差別されることなく世界中のみんなで協力できる」なんて言えば夢物語に聞こえるけど,ある意味では貨幣がこの役割を果たしてきた。キリスト教徒とイスラム教徒も,ローマの人と中国の人も協力できた。いくら性格が悪くてカルト信仰してて差別主義者ななパン職人がいたとしても,「あのー,僕はおいしいワインを作って差し上げるので,どうか作ったパンをいただけないでしょうか…あ,いや,ごめんなさい…」とか言う必要はない。市場でお金渡してパンを受け取って終わり。

昔塾講の生徒に「なぜお金なんてものがあるんですか!お金なんてあっても不幸じゃないですか!」といった,まあ何か嫌なことがあったんだろうなという子がいた。僕はお決まりのように「物々交換じゃ大変でしょ?」という答えをだした。(本来ならお金について何か嫌なことがあったのか聞くべきだったんだろうけど)この説明だとあんまりインパクトないので,目の前のボールペンでも手に取ってこういうこと言えばよかったと思う。「虚構によって大勢で協力できる」の話も踏まえて,

  • このボールペンを使うまでに,ボールペンを製造する人,設計を考える人,材料を作る人,原料掘ってくる人,運ぶ人,どこのお店に運ぶか決める人,売る人,売ってることを知らせる人,いろいろな人が関わっている
  • その人たちはめちゃくちゃ人数が多い,何万人もいるかも
  • その人たちは近くに住んでない,海外の人もいるかも
  • その人たちは君と性格合わないかもしれない,怖い人もいるかも
  • その人たちは君のこと知らないし,信用もしてない
  • けど100均でお金払うだけで,その人たち全員の協力を得ることができて,かつ適切なお返しをしたことになる

なぜお金なんてものがあるのか,と将来子供に聞かれた時の答えはとりあえずこの辺の話をしておこう。ちょっと雑だけど壮大さが伝われば良さそう。

 

時計の話

そんなに本筋の話でないけど面白かった。 

  1. 農業の時代には自然の時間サイクルと共に暮らしていた
    当時は時間の計測をしないしできない,暦も気にしない
  2. 産業革命後,複数人で工場のライン作業に入るため,時間表が生まれた
  3. 工場の時間表に合わせて,公共交通機関,工場付近の飲食店,学校,病院,官庁も時間を気にするようになった
  4. 一国で標準時を定めた(それまで街によって時計がずれているのは当然だった)
  5. ラジオ放送が始まり,何よりも時刻をまず伝えるようになった
  6. 現代では時刻を気にしないことのほうが難しくなるまで時計が浸透した
    歯磨きから通勤まで何をするにも時間をベースに行動している

という話なんだけど,突然出てきた,「ドイツの物理学者がBBCニュースで流れるビッグベンの鐘の音からロンドンの天候を推定する手法を発見してドイツ空軍の支援になった」という余談がツボ。全然本筋関係ないけど数行割いてこのトリビアを教えてくれてありがとうという感じ。

 

 

 

他にも面白ポイントは沢山あったけどキリがないのでここまで。

 

紙の本を読んでいた時には,気になる部分や後で思い出したい部分に付箋を貼っていました。Kindleになってから気軽にハイライトが引けて,その文が後から参照できるのでめちゃくちゃ便利。読み終わった後にハイライトを振り返ると,そういえばこんなところで感動してたなーという気持ちを思い出せて楽しい。

なるほどと思えることが上下巻の隅から隅まで詰まっているので,1冊2000円程度の元は十分すぎるほど取れたのではないかと思います。