タイ語を勉強するとトイレには行けるが洗濯はできない

新婚旅行でタイのバンコクとアユタヤに行きました。 屋台グルメ,荘厳な寺院,象乗り,カオスな市場,マッサージ,夜景の見えるバー,…などなどそれはもう最高の一言です。

バンコクもアユタヤも世界中の人が集まる観光地です。なので,現地の人とはほとんど英語でコミュニケーションが取れます。 そうと知りつつも旅の楽しみの一つとして,タイ語を勉強していきました。 英語以外の言語をかじってみたいという思いもありましたし,自国語でしゃべってくれる外国人ってウケがいいよねという気持ちもありました。

とはいえ,タイ語学習に費やせたのは,タイに行くことが決まってから実際に行くまでのたった1か月半。 ほぼ「かじる」程度しかできないと考えて,やること絞って短期集中でチャレンジしてみました。

タイ語の勉強

大学1年生同士がする「俺の受講してる第二外国語がヤバくてさ」みたいな会話のノリで体験談を書いてみます。 発音記号が出てきますが,雰囲気で読んでもらえればと思います。

タイ語ってどんな言語?

思いつく限り挙げてみると下記のような感じです。

  • 発音
    • 声調言語である (単語の音の抑揚がしっかり決まっている)
    • 子音が20個,母音が9個 (二重母音など含まず) と日本語より多い
  • 単語
    • 合成語が多い (水+魚で,ナンプラー)
    • 似た発音の単語が多い
    • 日本語の助数詞 (1"本"とか3"回"とか) に相当する類別詞がある
  • 文法
    • 孤立語である (格変化(I, my, me, mine)や活用(speak, spoke, spoken)がない)
    • SVO型である (英語と同じ)
    • 全部後置修飾 (「冷たい+コーヒー」「海鮮+料理」じゃなくて「コーヒー+冷たい」「料理+海鮮」)
  • 文字
    • 独自の表音文字
    • 子音字と母音字と声調記号の組み合わせ
    • 子音字は44字,母音字は14字,声調記号は4字
    • 声調記号と声調の対応が子音字の種類によって異なる

学習前にささっとググった難易度としては

  • 発音: 難しい
  • 単語: 簡単
  • 文法: 簡単
  • 文字: 激ムズ

というものでした。

これを踏まえて,1か月半という短期間で旅行先のコミュニケーションをどうにかするために,

  • 発音と聞き取りという観点で単語を覚える
  • 文法は、肯定文否定文疑問文レベルまで理解する
  • タイ文字習得はスッパリ諦める

という学習方針を立てました。

(なので本記事にもタイ文字は出ません)

意外と難しい単語学習

キクタタイ語 入門編で勉強を始めました。

数少ないタイ語単語帳の中でも,発音にフォーカスした単語帳です。 タイ文字は小さめに,発音記号はデカめに書かれています。

付属の音源を聞きながら,音と意味の対応を取って単語を覚えました。 子音がLだったかRだったか,声調が平音aだったか上声ǎだったか高音áだったか,末子音がmだったかnだったかŋだったか,かなり気を使って覚えた記憶があります。

とにかく似た発音の単語がやたら多いです。 子音母音声調で言い分けられる分,1単語あたりの音節が短いためでしょうか。

  • khâaw ご飯,khǎaw 白,khâw 入る,khǎw 彼
  • chây そうである,cháy 使う,chûay助ける
  • tɔ̂ŋしなければならない,tɔ́ɔŋお腹,tɔ̂ɔŋお釣り
  • klây 近い,klay 遠い

話を聞く分には流れでどうにか補完できると思いますが、自分からアウトプットするときにはごちゃごちゃになります。 また,声調が絡むことが単語の覚えにくさに繋がっている感じすらします。

数も大変です。 言いたい数字に対して未だにパッと発音が出てきません。

僕らが英語の数字を one! two! three! four! five!, ...! って早口で読み上げられるのは 長年の慣れ親しみがあったからなのだと実感しました。

バンコクでマッサージをしてくれたお兄さんが勢いをつけて何かするときに 「sǎam (3), sɔ̌ɔŋ (2), nɯ̀ŋ (1), ...!」とカウントダウンし始めたときも, 即座に数字が認識できなかったので,どのタイミングで何が起きるか全く分からず怖かったです。

時間も大変です。数字すらおぼつかないのですが,「○時」の表現が不規則過ぎて,未だに時計を見ても5秒くらいシンキングタイムが入ります。 午前1時 tii nɯ̀ŋ(1), 午前2時 tii sɔ̌ɔŋ(2), ... ときて法則が分かったところで 午前6時になった瞬間 hòk(6) mooŋ cháaw になるし, 午後1時 bàay mooŋ, 午後2時 bàay sɔ̌ɔŋ(2) mooŋ, 午後3時 baay sǎam(3) mooŋ, の後に午後4時 sìi(4) mooŋ yen が来るのでリアル厚切りジェイソンになりました。

こんな調子で文句を垂れつつ単語(と例文)を詰め込んできました。結局キクタタイ語 入門編の音声を合計77時間くらい聞いていたようです。えらい。

めちゃめちゃ楽な文法

タイ語の文法を学習し尽くしたわけではないので、堂々と楽とは言いがたいのですが,文法は非常に楽でした。 例えば僕らが英語学習で苦労したような数々のことが、タイ語には含まれていないようです。

まず時制 (現在,過去,未来) や相 (進行とか完了) がないです。時間表現がないというよりは、時間表現のために動詞の形をあれこれ変えるということがないです。

mɯ̂a wan níi (昨日) といえばそれは過去の出来事になるし,yaŋとつければ「もうやった」「まだやってない」の意味になるし, 大抵は「そういう単語を置く」ことでなんとかなります。

時制や相に限らず,中高生の頃教わった英文法って8割方「いかに単語の形を正しく変えるか」に終始していなかったでしょうか? 人称,単数複数,疑問文,否定文,受け身,比較級,分詞,不定詞,話法,…

タイ語は動詞や形容詞や代名詞の形状が状況によって変わるということがなく (孤立語),このあたりのめんどくささがかなり省かれている印象を受けました。

その他お世話になった教材

タイトレ www.youtube.com

リスニングテストとしてもスピーキングテストとしても役立ちました。

Ling

Master Ling - タイ語勉強中 もくもく

Master Ling - タイ語勉強中 もくもく

  • SIMYA LABS COMPANY LIMITED
  • 教育
  • 無料
apps.apple.com

会話の流れに沿ったロールプレイングをやってみたかったので, チャットボット形式の発音テストが助かりました。

タイ語の実践

いざ現地へ。

スワンナプーム空港からエアポートレイルリンクに乗り,マッカサン駅構内。 緊張しながら sa wà dii khráp (こんにちは) 以外で初めて使ったタイ語は,

This line chɯ̂ɯ aray? (この路線の名前は何ですか?)

でした。

半分英語使っとるやんけ。

駅員のお姉さんがMay I help you?と英語で話しかけてきたので, つい英語が出てしまいました。

それでも「パッと出てこない表現は最悪英語に変えればいいか」という考えで タイ語で話す心理的なハードルを下げられたのは良かったです。

できたこと

正直,タイ語話して撃沈という覚悟もしていたのですが, 思いのほか色々なことができました。

市場の買い物,価格交渉,服の試着,飲食店での注文,おすすめメニューを聞く,美味いと伝える,…などなど

「こいつタイ語しゃべるやん!」みたいにびっくりされたり 「話すの上手いね」と言われるのは素直にうれしいものです。

タクシーで尿意の限界を感じて,最寄りのトイレに寄ってもらったのもいい思い出です。

注文した飯がいつまでも来なくて,タイ語で催促したら持ってきてくれたけど, 計算の2倍くらいお会計ぼったくられたのもいい思い出です。

ニューハーフのお姉さんが女性の語尾khâを使っていたのに気づいたときは感動しました。(男性はkhráp)

できなかったこと

こちらが中1英語の教科書みたいなシンプルな問いかけをして, Yes, I do. レベルの返しを聞く分にはタイ語トークを楽しめたのですが, むこうから複雑なタイ語を話された時にはさすがに無力です。

ホテルのランドリーサービスを使いたくて,用紙に書いてあるランドリーサービス担当に電話をかけました。英語があまり分からないようで,要件を伝えるのにかなり難儀しました。(ランドリーサービスだから要件もクソもないんだけど)

結局「部屋まで来てくれるから置いておけばいいのかな?」と何となく理解して, 洗濯物一式を部屋に置いて,一日遊んで帰ってきたとき見たものは…

綺麗にベッドメイキングされたシーツの上で放置されたままの洗濯ものでした…