『ゲームプランナー入門』に沿ってunity1weekを振り返ってみた
先月,ゲーム制作イベント unity1week にてゲームを作りました。
今回はその作ったゲームについて振り返りをしていこうと思います。 そして振り返りに使う観点として,書籍『ゲームプランナー入門』(著:吉冨 賢介) の力を借りようと思います。
タイトルに「ゲームプランナー」とありますが,僕はゲーム会社勤めでもプランナーでもありません。 趣味の範囲でゲーム制作をしているだけですが,面白いゲームを作るために参考になると思って読んでいます。 また,僕の頑張りどころがグラフィックやサウンドやプログラムではなく,ゲームのアイデアやメカニクスの設計に置かれているので, 想定読者のプランナーであるといっても差し支えないと思います。
目次
unity1weekで作ったゲーム
振り返りの前に拙作「地中水中走行ちゅう!」を紹介させてください。
地中水中走行ちゅう! | フリーゲーム投稿サイト unityroom
このゲームを一言で言えば「どこでも通ってよいタイムアタック横スクロールアクション」です。 「地面の上を走って障害物や穴を飛び越える」という横スクロールアクションのお決まりを破って,異能感や全能感*1を楽しむゲームです。
ゲームの主人公のネズミは,対応するアイテムを取得すれば水中でも空中でも地中でも金属中でも移動してコースをショートカットできます。 それゆえ,タイム短縮のために適切なアイテム・ルート選択がカギを握るゲームです。
ゲームアイコンに書かれた「こっちのほうがはやいよ!!」が本作の醍醐味を物語っています。
振り返り
『ゲームプランナー入門』はゲームプランナーを目指す学生をメインターゲットとして, ゲームアイデア・企画書・仕様書・就職をトピックにプランナーとしてやっていくためのノウハウを示した本です。 前半のゲームアイデアの話に面白いゲームを作るためのヒントが沢山詰まっているので,こちらを参考に振り返ってみます。
同書ではゲームの面白さの本質を「挑戦と達成感」にあるとしています。
そのため面白いゲームを作るためには,
- そもそも挑戦と達成感の仕組みがあること
- 挑戦に能動的に取り組んでもらう仕組みがあること
- 達成感を得られる盛り上がり(クライマックス)があること
が必要だそうです。
果たして僕のゲームはどこまで実践できているのでしょうか。
挑戦と達成感があるか
多くのゲームにおいて,挑戦と達成感は以下の流れで成り立っているそうです。
- ルール,ゲームシステムの紹介
- クリアすべき課題・目標の提示
- 挑戦!⇒クリア!
- 報酬・評価 (2.に戻る)
これらの要素と流れを持っているか確認してみましょう。
ルール,ゲームシステムの紹介
このゲームにはコアになるゲームシステムがあります。それは水中や地中,空中への状態遷移です。このシステムは,チュートリアルステージ内でテキストと実際の体験を通して説明されています。
アイテム「魚」の後に水辺を,アイテム「もぐら」の後にトンネル掘ったらショートカットできそうな壁を用意することで,水中や地中の移動を体験してもらうように仕向けています。
操作方法については,直感的な操作方法で状態遷移できるようにして説明不要になるよう心掛けました。 しかしそれでも「移動キーを0.5秒押し込むと水中に潜れる」「空中でもう一度ジャンプすると空中を飛べる」という仕様は見逃される可能性がありました。 そのため,水中に潜れずにしばらく水上を泳いだ人に向けに,テキストメッセージを読んでもらうようにしました。
以上のような工夫により,ゲームシステムを理解してもらうようにしています。 しかしプレイ実況を見る限り,まだまだ説明不足・説明下手である点も見受けられます。
チュートリアルを終えた後の本番ステージでは,水中・地中・空中に加えて金属中を移動可能になります。 プレイヤーは本番ステージで初めて金属パイプ(もぐらを手に入れても進めない)を見かけることになりますが, 「金属であることが伝わらない」「土管のように入り口から中に入れる」といった誤解を招いているようでした。
また,「触るとアウトでチェックポイントに戻らされるトゲ」を用意しましたが, ネズミ(プレイヤー)がチェックポイントに瞬間移動する挙動は混乱を招いているようでした。 これはエフェクトやカメラワーク,チュートリアルでの体験で取り除けた不快感だと考えています。
クリアすべき課題・目標の提示
「地中水中走行ちゅう!」は,画面右方向に進んでなるべく早くチーズにたどり着くことを目的としたゲームです。
ゲーム内で明確に説明していませんが,「まず右に進むべき」ことは横スクロールアクション(プラットフォームゲーム)の常識として暗黙に理解されるものとしています。 万一プレイヤーが左に進んでしまう場合に備えて,壁(崖)を用意しています。
また,ゴール(チーズ)がどこにあるかを説明するために「ゴールまであと○○m」の表記をしています。 もちろん,ゲーム開始時にカメラを動かしてチーズを映しても良いですが,その際にステージの形状が分かってしまうと「こっちのほうがはやいよ!!」を自分で見つける楽しみが分かってしまうので,あえてぼかして伝えています。
さらに,タイムアタックであることを伝えるために経過時間の表記をしています。 特にコンマ単位まで表記することで,プレイヤーに数字が高速でパタパタ変わるのを見せ,「急がなきゃ!」と思わせるように仕向けています。
これらの仕組みでなんとかルールと目標は伝わったのではないかと思います。
挑戦!⇒クリア!
このゲームの挑戦は最短ルートを見極めるところにあります。
例えば山を前にしたときに,一段一段ジャンプして山を越えるか,地面を掘り進んで突き抜けるか,少し遠回りしてでもアイテム「羽」を手に入れて飛び越えるか,最も早いルートは何だろうと考えることです。
その挑戦を与えるために,本番ステージのレベルデザイン(マップデザイン)は一本道にならず多様なルートを取れるようにしています。
また,画面の範囲と見える情報に気を使うことで,最短ルート探索が程よい難易度になるように調整しています。 ステージの全地形が把握できるほど表示範囲が広ければ,見るだけでおよその最適ルートが分かってしまいますし, 狭すぎれば別ルートの発見機会を損なうことになってしまいます。
以上のように,レベルデザインと画面範囲の調整によって「最短ルートを見極める」という挑戦をプレイヤーに課しています。
報酬・評価
ここは正直よくできていない部分です。
一応,ゴールタイムを「評価」して,ランキング機能によって達成感を与える仕組みにはなっています。
しかし,苦労してゴールしたプレイヤーに与える「報酬」,例えば「褒める」演出が決定的に足りていません。
熱心なプレイヤーはタイム更新のために何度も何度も途中リトライをしています。 そのような苦労の果てにゴールしたからには,もっと大げさな褒める演出が必要です。 (チーズを見たって誰も嬉しくありません。)
例えばかわいいネズミちゃんが大喜びするとか,クラッカーや拍手やファンファーレで出迎えるとか,タイムを強調表示するとか, プレイヤーを褒める演出はいくらでも加えられたかと思います。
挑戦に能動的に取り組む仕組みがあるか
いくら挑戦と達成感が定義されていても,それを面白いと思ってもらうには「能動的」に取り組んでもらわないといけないそうです。
曰く,人が何かに能動的に取り組むために
- 目的が明確である
- 手段が明確である
- 自分で決められる
- 小さな成功体験で自信を得る
- 適度な難度である
- 正当な評価・報酬を得られる
であることが必要だそうです。僕のゲームは能動的に取り組める仕組みを備えているでしょうか。
目的が明確である
「目的」は「なるべく早くゴールにたどり着くこと」と伝わっているはずです。
手段が明確である
「手段」も「右に進むこと」「アイテムを使ってショートカットすること」ということをチュートリアルで体験してもらっているはずです。
自分で決められる
この手段もプレイヤーが発見できる範囲で無数に用意しているため,「自分で決められる」ゲームとなっているはずです。
小さな成功体験で自信を得る
しかし,「小さな成功体験で自信を得る」作りになっているかは怪しいところです。 チュートリアルを除けば1ステージのゲームなので,成功体験はゴール時の1回しか得られません。 細かく成功体験を与えるには短めなステージを多数用意する構成にした方が良かったかもしれません。
また,1ゲームの中でも小さな成功体験を演出することも考えられます。 例えば,地中や水中に行く能力で「うまくショートカットしてやった感」が出るようなマップ構成にする方法が考えられるでしょう。
適度な難度である
次に「適度な難度である」についてです。 クリアできず挫折するようなゲームではなく,タイムを縮めようとすれば工夫が必要なゲームなので,やる気をそぐような何度ではないと思います。
正当な評価と報酬を得られる
最後に「正当な評価と報酬を得られる」ですが,これは前述の通り苦労したプレイヤーを褒める演出が足りていません。 また,「小さな成功体験」とつながる話ですが,ゲーム終了時のみでなく途中途中にも細かい報酬が必要でしょう。
こうして振り返ると,僕のゲームをより能動的に取り組んでもらうには「細かく細かく成功させて褒めること」の不足が課題であることが分かりました。
クライマックス(盛り上がり)があるか
ゲームはエンタメなので,起承転結の「転」に相当するクライマックス(盛り上がり)が必要だそうです。 『ゲームプランナー入門では』下記のような例をクライマックスとして挙げています。
残念ながら「地中水中走行ちゅう!」制作時には,クライマックスが必要という考えが全くありませんでした。
単一ステージなので「歯ごたえのある挑戦」ステージは用意できていませんし, ネズミの能力取得も「一時的なパワーアップ」ではありません。
しかし,「ボーナスチャンス」については意図せずたまたま用意することができました。 ゲームのネタバレ(?)にはなりますが,水中・金属中・真空中移動によって長距離を高速に移動できる区間があります。
ここは細々したルート選択や試行錯誤のことを忘れて,一気にタイムを縮められる気持ちのいい部分になっています。 「いいルート見つけてやったぜ!」「うおおおお!!ショートカットじゃあああああ!!!!」と,プレイヤーがテンションを上げてくれたなら大成功のレベルデザインだったと思います。
まとめ
振り返ってみると,「地中水中走行ちゅう!」には以下のような良い点,悪い点があることが分かりました。
- 良い点
- ゲームの仕組み,目的をおよそ正しく理解できるチュートリアルになっている
- プレイヤーの選択肢が多くある挑戦を用意している
- ゲームを盛り上げるボーナスチャンスがある
- 悪い点
- 細かく成功体験を積ませ,細かく褒める仕組みになっていない
- 苦労してゴールしても褒め方がそっけない
精進したいと思います。
*1:いわゆる俺TUEEE